「いきなりデッカイ砂漠が出てきて、『なんじゃ、これは?』と耳目を聳たせた日曜劇場の意欲作『VIVANT』(TBS)を楽しんでいる」

 事前のPRをほとんどしなかったということは、主演の堺雅人さんと原作・演出の福澤克維さんのコンビによほどの自信があったと思われるが、筆者のように、SNSやガイド誌などで、新ドラマの研究(?)に不熱心な者にとっては、ホント、ビックリ仰天の展開だった。
 日曜劇場『VIVANT』の第1回から第3回まで見たところである。
 第1、2回の視聴率は11%台と制作者の期待には答えられていないが、それは事前の宣伝をあまりしなかった所為だともいわれている。
 第1回の冒頭、堺雅人さんたちがゴビかと思われる大きな砂漠の真ん中で、途方に暮れているらしい場面が出てくる。
 筆者は事前の情報は故意に読まないし、見ない人間なので、「おおっ」と身を乗り出したのである。それほど衝撃的な導入だった。大作映画みたいだ。
 音楽が面白い。千住明さん。
 何故かと言えば、全編オリジナルだと大変だってんで、版権の切れた名クラシック曲を上手く使い、アレンジまでして使用しているのである。考えたナ(笑)。
 予告編でも豪快に聴こえるリヒャルト・ワーグナーの『ワルキューレの騎行』は、ベトナム戦争を描いた『地獄の黙示録』で盛大に使われたアレである。
 他に印象深く使われているのは、ラフマニノフの前奏曲集から嬰ハ短調の『鐘』である。また、ドボルザークの『新世界から』も使われている。
 じゃあ、オリジナルの部分はないのか、と辛口は突っ込みたくなるが、そんなことはない。
 軟派のメロディーだけのつまらん劇伴に比べたら、100倍も素敵である。
 さて、物語は大手商社・丸菱商事、エネルギー事業部のサラリーマン、乃木憂助(堺雅人)がバルカ共和国に送金した金が、システムを改竄されて誤送金され、130億円もの損害が発生する。
 本人が疑われることになり、中央アジアのバルカ共和国に調べに行くことになる。
 公安部外事4課の野崎守(阿部寛)が、乃木に対して「お前は嵌められたんだ」と言い、一緒に動いてくれることになる。他にもう1人の主役級は、世界医療機構の医師、柚木薫(二階堂ふみ)である。
 乃木を嵌めた人物を探し出すロードムービー(制作者はアドベンチャーと表現している)と言えばいいかもしれない。
 薫は難病の現地少女を日本で治療させたい。
 第3回に出てくるCPオタクの青年ハッカーが操作し、丸菱商事の奥深く、システムの奥の院(?)にハラハラドキドキ乃木が潜入するくだりが面白かったが、ハテ、どこかの映画で似たような場面を見たぞ、とも感じた。
 堺雅人さんは、『半沢直樹』の時のように、ピリピリしたエリートではなく、どちらかと言えばお人好しの普通のサラリーマン。ニコニコしていて可愛い。
 しかし、こんな重大案件にノー天気な人物では困るので、福澤さんは考えた。
 乃木に別人格を与えたのである。
 1人2役で辛口の辛辣な乃木が、お人好しの乃木を批判し、焚きつける。
 考えたナ。ちょっとばかり邪道だと思うが、まあいい。
 堺さんは特別イケメンでもなし、小柄でスターらしくないのに、こういう市井のサラリーマンを演じると、実にリアリティが出る人だ。
 もう1人の主役・野崎守を演じる阿部寛さんは、日本人離れした長身で濃い顔。いかにもスパイ摘発親分に向いているが、この方、いささか発音が籠って、時々セリフが聞きづらいことがある。エロキューションに難があるが、スターだから誰も指摘できないのだろう。編集で治らないのだろうか。勿体ない。
 医師の柚木薫を演じる二階堂ふみさんは、過酷な砂漠地帯で働く女性医師として適役だと思う。黒髪と大きな瞳に意志の強さが出ている。
 閑話休題。
 今、選考の最終段階に入っている広告電通賞の中に、二階堂ふみさんが出ている。私は30年ぐらい東京地区映像部門の選考委員をやらせていただいているが、二階堂ふみさんが女性の生理について1人語りをするものである。
 あのキラキラする瞳でカメラ目線、殿方が見たら相当刺激が強いと思う。
 ただの美形整形女優さんとは一線を画する。
 あ、ここで思い出したが、『VIVANT』にも美人が出ている。バルカ共和国に駐在している大使に檀れいさんが扮している。美人だけど悪役なのか?
 美人がトゲのある役をやると怖いのだ!
 役者でもう1人。第1回からずっと乃木たちを捕まえようと追いかけてくるバルカ共和国の警察官の親分がおかしい。
 長髪でアンパンみたいな丸顔で権力を振りかざすが、なんとなくユーモラスで憎めないのだ。名前はわからない。第3回では、衛星を操作して国境(バルカとモンゴル)線を動かし、乃木たちを捕まえようと先回りしていたバルカ警察の得意顔が、「越境だ」と言われて引き下がるクダリがめっちゃ痛快だった。
 最後に特筆すべきものをあげる。
 それはラクダたちの名演技である。
 薫がラクダから落ちて行方不明、乃木が連れ戻しに行くのだが、ラクダちゃんは苛酷な砂漠を往復して疲れ果てる。ついに座ってしまうラクダちゃん。
 立ち上がれなくて人間に向かって頭を上げられないし、砂漠の砂の上に顎をコトンと落としてしまうのだ。いじらしい。福澤さん、ラクダちゃんの演出は専門の調教師がいるの?
 今期の楽しみのNO.1ドラマは間違いない。
 暑い盛りの大金放出ドラマ。頑張ってください(2023.7.31)。
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